美少年ゴルフデビューする

一人で駐在していると土日の過ごし方が非常に難しい。
ショッピングに出るにしても一人ではなんとも味気ない。当時のムンバイには若い美少年の購買欲を擽るようなモノは皆無に等しかった。人によって興味の対象は違うと思うがまだ若い美少年にはインド雑貨やら白檀で出来た仏様、象などの彫刻品には一切興味が無かったし、駐在員妻たちが夢中になっている可愛い捺染のコットン製品にも触手は動かなかった。なので土日は専ら家の近所を散歩したり現地で知り合ったS氏のお宅にお邪魔するくらいのものだった。

美少年が時間を持て余しているのを見かねて駐在員仲間のM氏がゴルフに誘ってくれた。
実を言えばそれまでゴルフクラブを触ったことさえ無かった。なのでクラブセットやら手袋やら靴やら最低限必要なツールを持っているはずもない。躊躇した。それでも道具はM氏が貸してくれるということなので御厚意に甘えることにした。この際ゴルフとやらを経験してみるのも良かろうと気軽な気持ちでお誘いに乗ることにした。

ムンバイにはかつて英国統治時代に紳士の社交活動の場として設置されたクラブ施設(GYMKHANA)がいくつかありその中のひとつWillingdon Sports Clubに小ぶりなゴルフコースが併設されていた。

約束の朝、美少年は待ち合わせたスポーツクラブに出向いた。週末の暇つぶし程度としか考えていないのでポロシャツ+短パン+スニーカーにキャップといういかにもふざけた格好だった。

現地に行って少し様子が違うことに気付く。Wiilingdonの玄関ホールに行ってみるとそこには顔見知りの日本人駐在員達、少し離れて韓国人駐在員グループの姿があった。
どうやら今日はコンペとか言うものが開催されるらしい。
自分には関係ないかとか考えているとM氏がやって来た。

開口一番、

美少年さん、今日は頑張ってくださいよ、
会長と一緒の組ですからね。

なぬぅ??
そんなこと一言も聞いてないよぉ〜

そんなの全然聞いてな〜い!!
ゴルフのゴの字も知らない真っ白状態の美少年がいきなりコースデビュー、しかも当時の日本人会会長と一緒の組でコースを周れとぉ?無理無理無理無理無理、絶対に無理ぃっ!!

そこへ今日一緒に周る日本人会会長のX氏がやって来た。某社ボンベイ支店長の肩書を持つ初老の紳士でボンベイ在住日本人の間では人望も厚く頼りになる方だった。が、ことゴルフに関しては結構厳しいと聞いていた。

やぁやぁ、美少年さんごきげんよう
今日はお手柔らかにネ 💖

よ、よ、よ、よよよよヨロシクお願いしゃす

挨拶が言葉になってなかった。ゴルフ場の会長は普段見せる寛容でもの優しい物腰が感じ取れなかった。
初対面ではなかったが普段と違うそのオーラが美少年の心を搖さぶった。
もう後戻りはできない・・・・・腹を括った。

つづく・・・・

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