美少年ゴルフデビューする ― 2

同じ組で周るメンバーと挨拶を交わしつついよいよグリーンに移動。この間何を話したか全く覚えていない。
会長以外のメンバーの名前も顔も全く覚えていない。会長以外の人のことを気にしている余裕が無かっただけだ。

綺麗に刈り込まれた芝生のコースは広々としていて気持ち良い。喧騒の街角とは全く違う異世界だ。

1番ホール、いよいよ自分の組の順番が回ってきた。
まず会長のティーショット。評判とおりお上手そうである。多くのの人々が会長の一挙手一投足を遠巻きに見つめている。そしていよいよ会長がティーショット。取り巻きは申し合わせたように大声で

ナイスショーっ!!

なんなんだこの世界は・・・・・

ついていけない。一瞬で悟った。

ここではスコアがどうだとか、あのコースはどうだとかそういう話はしない。
一応どういう状態だったかを箇条書きにしておくので察してください。

  • 空振り連発
  • ボールが飛ばずティーからコロリ
  • 当たったと思ったらボールはとんでもない方向にさようなら
  • 他のプレイヤーのボールを叩く
  • アプローチショットを打とうとする人の前を歩く
  • 一体自分がいくつ叩いたのか数えることができなくなるほど動き回った
  • そして人生で一番謝り倒した一日

Willingtonではインド人のキャディが1プレイヤーに2人つくことになっていた。オバちゃんキャディではなくて男性のインド人が2人だ。そのうち1人はクラブを背負ってプレイヤーの傍ら、そしてもう1人はフォアキャディと言うらしくボールが飛んで来るであろう場所に予め待機している役割である。

実はこのキャディ達、自分達が付いたプレイヤーを馬に見立てて賭けをしている。自分がついているプレイヤーが上手だと上機嫌だしそうじゃないと悪態さえついている。
どうせわからんだろうと思っているのだろう下馬評を大声でプレイヤーの前で話している。
自分の下馬評も聞こえてきた。

こいつ初めて見たけどすっげーヘタクソ

ヘタクソ界のマハラジャ確定

マジすか?

そんなんでコース出るなんて100年早いわ
帰って寝とけ

あぁ〜あ、こんなヤツについたら負け確定やんけ

やってられへんわホンマ

ナマステ〜♪今日も我々の勝ち〜♪

会長付きキャディ最高!
ナイスショ〜っ ♬

キャディ達の会話を聞こえ、美少年の中の瞬間湯沸かし器にスイッチが入った。

ムキぃ〜!!
カチッ、シュボッ🔥
でも火力はまだ(小)だった

詳しくは忘れてしまったが5番ホールだったかに池があった。


そしてここはお約束。美少年が打ったボールは池に一直線。キュイーン

Golf ball landing in pond, close-up

するとどうでしょう、どこからか数人の上半身裸+短パン+裸足の少年たちが一斉に飛び出しその池にダイブ。
しばらく池に潜ったままの少年たち。そのうち1人の少年がゴルフボールを手にこちらに走り寄って来るではありませんか。彼はボールを差し出す。美少年は丁寧に礼を言いその場を去ろうとする。
するとその少年が「サーブ、50ルピーだよ」と。

そう、池ポチャしたボールを回収し50ルピーで買い戻せということなのだ。なんでやねん?


周りに尋ねてみるとそれがここの流儀らしい。納得行かないが仕方ない。払った。
それから通算3回同じ池に連続で打ち込んだ。3回謝った。3回払った。150ルピー払った。
思わぬ臨時収入にOBボール回収班の少年たちは大歓喜、美少年の周りはさながらボリウッド踊るマハラジャ。

ありがと〜!大漁や〜!!
えぇ週末や〜♪

🔥🔥🔥瞬間湯沸かし器から出るお湯はもう沸騰状態。ゴォーという音と共に青白い炎が立ちのぼる🔥🔥🔥

一日中謝りまくり、インド人に下手くそ、帰って寝ていろとバカにされた上にまんまと金を巻き上げられる。
何が紳士のスポーツだ、何が健康のためだ、何が楽しい余暇だ!俺は楽しくない!楽しくないぞっ!!

こうして美少年はゴルフを人生の禁じ手とし、一生プレイしないことと心に決めた。
今に至るまでその禁は破られていない。
デビューの日が引退の日となった・・・・

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