episode 4 繋がらない電話と読めないファックス
30年近く前の話です。
兎に角当時の通信インフラはそれはもうお粗末なものでした。
街角では電話会社のエンジニアがボロボロの交換機ユニットを開けてあれやこれや作業している姿をよく見かけた。覗いてみるとユニットの中身は錆さ錆びでボロボロの接続ワイヤーがにょろにょろと。
電話が見事に繋がらない。当時は携帯電話もポケベルも無く一般人にとっては電話が唯一の通信ツールだった。国際電話もバカ高い料金体系だったので日本とのやり取りはテレックスが主流だった。紙のテープに穴あけてだーっと流していくアレだ。
その日、ボンベイ市内にある取引先と面談のアポを取ろうと朝から四苦八苦、もう気が遠くなるくらいの同じ番号に掛けているが全然繋がらない。
朝一番から2時間くらいダイヤルし続けてようやく気が付いた。
直接会いに行った方が早くね?
さっそく取引先の事務所に出向き、タイミング良く居合わせた担当者と面談し小一時間でミッションコンプリート。やはり行った方が早かった(笑)
市内通話でさえこの有様なので国内の地方都市に電話するとか、ましてや日本に電話するなんてよほどのことがなければ考えもしなかった。回線状態は最悪で日本との通話では遅延が起きて慣れない者同士だと遅延をうまくさばけないため会話がうまく成立しない。時間ばかりかかり喜ぶのは電話会社だけ。
回線状態が悪いためファックスも送受信にやたらと時間がかかる。やっとこさ受信できても途中から文字が流れて判読できない。日本からの急ぎの返事を待っているときなど判読不能なファックスを受信すると頭に来たものだった。
ワープロ専用機がまだまだ普及していない当時は手書きの原稿をそのまま送信してくる輩が多かった。と言うか当時の先輩諸氏は10人中10人パソコンもワープロ機も使えないのでレポートフォームに手書きしたものをそのまま送ってくる。中には英文タイプを駆使して送って来る先輩も居た。テレックス時代のやり方をそのままファックスでも続けるわけだが、こちらの方が手書きよりもなんぼかマシだった。
慣れてくるとファックスの字面を一瞥しただけでその筆跡から誰から来たのか一目瞭然だった。嫌いな上司から送られて来たファックスはすぐにクシャクシャのポイってしたことが何度もあった。返事はまだかと言われると受け取ってませんけどと言えばおK。
紅顔の美少年が厚顔の美少年に変化し始めたのはこの頃からである。
便利になれば出来た余暇を趣味にあてられるとか考えるのは間違いだ。
余裕が出来ればその余裕を使ってもっと仕事する。余裕がなくなる。もっと便利になる、もっと余裕が出来る、もっと仕事するの無限ループ。ちゃいますか?