episode 5 俺は世界標準の男になる!

時間は少しだけ遡る。

インド駐在を命じられてから考えていたことがあった。

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これからはITの時代だ。ITを制する者が世界を制する。
ノートパソコンとやらを手に入れてNifty-ServeかBiglobeでも始めて世界に羽ばたくのだ!!
そして、衣食住を保証されたサバイバルを生き抜き、かつて今までいかなる先達たちも実現し得なかった地上の楽園を、あの永遠のシャングリラを実現するだろう

あぁ、選ばれし者の恍惚と不安、共に我にあり
人類の未来がひとえに我々の双肩にかかってあることを認識するとき、
めまいにも似た感動を禁じ得ない

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そしてほどなくして東芝ダイナブック購入。
これさえあれば世界征服も夢ではないと本気で考えた。アホである

日本のノートパソコン黎明期、NECがノートパソコン市場のほぼ全てを牛耳っていると言っても過言ではなかった。巨人大鵬98NOTE。僕も君も彼女も隣の犬もみんな98NOTEの時代だ。ダイナブックを選択する者はビッグエッグ1塁側に阪神の法被を着て単身乗り込み掛布、バース、岡田と絶叫しているようなものだったがそんなことは気にしなかった。
世界標準な男には世界標準なマシンがお似合いなのだ。

でもACアダプターは100Vが標準仕様でインドで使うには変圧器を使うか220V対応のアダプターを買うしかなかった。110Vでしか使えなくて何が世界標準だ!でも買った。高かった。20MBの内蔵HDDも買った。20万円だった。月給より高い。涙が出そうになった。一太郎も買った。なんとか言う表計算ソフトも買った。これは毎月の経費報告を作成するのに重宝したがそのころ主流だったLotsu 1-2-3にしとけば良かったと思っていた。

こうして紅顔の美少年は鈴木亜久里になった。

2400bpsのモデムも買った。そしてNifty-ServeのIDも手に入れた。
世界の半分は美少年の手中に堕ちようとしていた・・・。

あ、そう言えばなんとかスロットに挿すファックスモデムも買ったような記憶がある。
ダイナブックで作成した文書をそのままファックスで送ることが出来る優れものだ。当然そのときはインドの回線事情なんて知る由もなかったんですけどね。

結局このダイナブック、インドの回線品質の悪さ、本人のスキルの低さもあって十分に使いこなしたとは言えませんでした。
インドに持ち込むのでさえかなり苦労しました。当時はPCをはじめとする海外製の電気製品に法外な税金を課していたんです。なんとか税関のおっさんの目と荷物のX 線検査を掻い潜ってやろうと色々と悪知恵を働かせたりしたもんです。それでもあるときダイナブックが税関で見つかってしまい、これはPCだろうと言う税関職員に違いますよ、電動タイプライターですよ、とか言いながらなんとか切り抜けたのは今となっては苦笑ものです。

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