episode 2 戒厳の朝

12月のある朝TVのローカルニュースをぼんやり眺めていたらなんかムスリムの大御所みたいな感じのおっさんがえらい剣幕で怒っていた。別のチャンネルではヒンドゥのおっさんがに青筋を立てて今にもひっくり返らんばかりの勢いで怒鳴り散らしていた。何を言ってるのかよくわからんかったが配達された英字新聞を読んで大体のことは分かった。

1992年12月6日、ヒンドゥ過激グループがアヨーディヤバブリーマスジッドを破壊、陵辱した。ムスリムのヒンドゥへの怒りは頂点に達した。バブリーなマスジッドと言うくらいだから結構お金をかけていたのかも知れない。それを壊されたらそりゃ腹が立つ、怒る。

アヨーディヤでの出来事を契機にボンベイ、デリー、アーメダバード、スーラットなどインドの主要都市でムスリムとヒンドゥの対立が巻き起こり暴徒となった両陣営のグループがお互いを襲ったり襲われたり仁義なき戦いインド編が繰り広げられた。果ては関係のない商店の略奪行為まで始まる等、状況は混沌を極めた。

ボンベイ市政府は市内全域に渡り外出禁止令を発令したがそれでも騒ぎは拡がり続けた。数日間で900名の命が奪われた。

紅顔の美少年は外出禁止令の中数日間自宅から出ることが出来なくなった。事務所にも出られず自宅にファックスもなく日本を含め外部との連絡は繋がらない電話のみ。繋がらない電話は更に繋がらなくなり通信手段が断たれた状態では在宅ワークさえも成り立たなかった。

更に大きな問題があった。食べ物が無い。一人暮らしで毎日毎食を外食に頼っていたため食料の買い置きがないのだ。数日前に買っていたNISSINカップヌードルが2個手元にあるのみである。しかも2個ともカレー味。ちなみにカップは樹脂製。2個の貴重なカレー味カップヌードルは自宅待機二日目には無くなってしまった。

腹減った・・・・と呟きながらリビングの窓から何気なく外に目をやるとと数人のインド人がグロッサリーショップに駆け寄って行くのが見えた。そこは先週紅顔の美少年がティッシュを買うついでにカップヌードルを買った店だ。ショップに到着するや数日前から閉ざされている金属製のシャッターをこじ開け始めた。そして商品を持ち出している。やっとるやっとると眺めているとほどなくして数人の警察官がやって来た。そしていきなり空に向けて威嚇射撃。パーン、パーン、パーンという乾いた発砲音が人気の少ない街角にこだました。生まれて初めて発砲音と言うのを聞いた。しばし空腹を忘れた。

商店を略奪していた者たちは蜘蛛の子を散らすように方々に走り去っていった。それでも手に入れた商品を手放すことはなかった。したたかである。みんな腹が減っているのである。

外出禁止令の中、紅顔の美少年は静かに呟いた・・・・

頼む、それ売ってくれ。

この出来事の翌日だったかには政府が戒厳令を発令、軍を動員し”shoot at sight”を許可した。現場の兵士が独自の判断で発砲を許可された途端それまでの混沌が嘘のように市内は平穏を取り戻した。しかしムスリムとヒンドゥの対立は水面下でくすぶり続け1993年の連続爆破事件に繋がってゆく。

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